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惠泉塾前史~才能の消耗

少しずつ色んな意味が解りかけてるけど/決して授業で教わったことなんかじゃない/口うるさい大人達のルーズな生活に縛られても/素敵な夢を忘れやしないよ

「十七歳の地図」尾崎 豊

 

繊細で集団生活になじめない尾崎が自分で考えることを始めた時、学校の息苦しい規則と問答無用の管理主義が彼の前に立ちはだかっていた。彼なりの純粋な正義感は教師に認められず、処罰という形で返ってくる。学校の方針に盲従するヒステリックな担任の女教師を媒介に尾崎の教師不信と大人社会への反発が募り、それが飲酒喫煙、家出、バイク窃盗、器物破損などへ道を開いていく。彼は無期停学の果てに学校をやめた。

これが自我に目覚めた尾崎豊の原体験だ。彼の激しい反抗の詩(うた)はここから紡ぎ出されてくる。彼の舞台はギラギラとする攻撃的な、エネルギッシュなものだそうだが、デビュー当初の「十七歳の地図」はむしろ透明感のある美しい曲だ。「退屈な授業、信じられない教師たちの支配から脱け出して、自由な誰にも縛られない夜へ逃げ込んだ」というメッセージは多くの高校生の共感を呼ぶ。尾崎豊は現代日本の多くの高校生の代弁者なのだという。

しかし、その彼の行き着く先が、覚醒剤不法所持による逮捕なのだ。彼の、「自由を求める反抗の歌」が多くの若者に受け入れられた時、彼は却って音楽業界に捕らえられ、演奏旅行に忙殺されて、自由を奪われ、激しく消耗していく。学校の体制というダイビングボードを利用し、それに反抗し、そこからドロップアウトすることで自己表現を獲得した彼は、自由こそ生命(いのち)の泉と歌いながら、人間的な逞しさを養う前に、華麗な舞台に憧れ、却って自由を奪われて窒息した。