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12月 「若者へ 手渡すこころ」 ~ 2018年の余市惠泉塾「若者の集い」~

「たった一度の人生をどう生きればよいか」に生き悩み、惠泉塾に招かれた2018年度の塾生たちは、異なる個性や文化背景を持っている人たちと共同生活をする中で、共に聖書を学び、共に汗をかき、秋には共に収穫の喜びを味わうという恵まれた1年を過ごしました。さらに、適切な自己表現と他者理解をねらいとする「若者の集い」では今年度、異なる文化圏に生きる人々にスポットを当て、アイヌ、沖縄、日本、フランス、アメリカ、中国について、できるだけ具体的に学び合う1年となりました。リーダーは中国人の呉丹さんですが、それぞれの国に相応しい講師を、惠泉塾関係者から招くことができました。
塾生活も終盤に差し掛かった11月2日、「職人を招いて」と題して、㈱ヴィタポート惠泉マナベーカリーのパン職人であった長谷川稔さんと惠泉ノア製作所の木工職人の木下肇さんに、①物づくりの楽しさ、②素材との出会い、③よい先輩との出会いというテーマでお話を伺いました。呉丹さんはその中で、本物の職人には創造力があり、失敗は失敗で終わらない、なかったごとくに仕事を仕上げていく、新しいものに再生する力がある、と木下肇さんが語ってくださったことが印象に残ったそうです。
㈱ヴィタポートの大切な特徴は、挫折を味わい、惠泉塾で立ち直った若者の、社会参加のための働く場を提供することにあります。会社の存在目的は「命を運ぶ」ことにあり、本物志向を貫いているため、個人の利益追求にはほど遠い性格をもっています。明るい社会づくりという公の利益のために、愛する力のある、逞しい若者が次から次へと育ち、旅立っています。神様の栄光をほめたたえます。当日参加した塾生のIさんの感想文から ―― 。

「職人はあまり表に顔を出さない。ゆえに、受け取る方はその仕事の結果をもの自体で判断しがちである。ものを消費するということに慣れすぎて、ものの由来を考えたり、使うことに味わいを感じたりしない日々を過ごしてきた私にとって、職人の話を聞くことは、生活を成り立たせているものは何だったのか、振り返る良い機会となった。
まさに職人そのものといった人生を送って来られた木下肇先生の話では、自己実現が尊重されている世の時流に流されず、己の体で仕事と向き合ってきた男の自負が感じられた。自己を捨てて素材である木だけと向き合い、家具を作り続けてきた姿は、どこか信仰者の姿と相通じるものがあると感じた。
多くの失敗があると聞いた。苦しいことばかりが続くように思われる木工の仕事だが、新惠泉庵のテーブル一つとってみても製品に温かみがあり、品格といったことまで伝わってくるのが分かる。長く使われ、人々の生活を支えるであろう家具がそこにはある。
パン職人である長谷川さんからは、真心の大切さを学んだ。技術の習得より時間がかかり、なおかつ達成が困難なそのことを、仕事を通して長谷川さんは証明してきたのだ。
マナベーカリーで作られる角食パンとフランスパンは、彼がその礎を築いたという。大量に作られる工場製のパンとは違い、確かな噛みごたえ、味わい、風味のあるマナベーカリーのパンは、真心の詰まった命の糧と呼ばれるにふさわしい仕上がりで、食する人々の『生きる力』とさえなってくれている。
彼らの作り出すものや食は『愛』によって支えられていると思う。だからこそ、優しさを人に手渡すことができるのだと思う。それが使う人、食べる人の記憶に残り、人々に伝わっていく力になっている。」