雪解け水の流れる音がやみ、ほとんど雪も融けてしまった余市惠泉塾は遅い春を迎えました。北海道の5月は
命の輝きが一斉に顕れ出る、一年中で一番瑞々しい季節です。 4月に入り、雪が融けて土の乾いた畑から順番に、トラクターでロータリーをかける作業を行っているのは、農業リーダーの藤川和夫さんです。機械で畑の土を耕してふかふかの土壌にするために、2、3回のロータリー作業を繰り返します。ゴールデンウィーク明けにはいよいよジャガイモを植え付けます。今年の種芋は総量で350キロ、全部植え付けるには、大きな畑が3ヵ所くらい必要とのことです。その後は1万本のタマネギを植え付け、それからナスやピーマン、トマトやシシトウなどの苗を植えます。 また、ビニールハウスを組み立てる作業にもみんなで取り組み、4月中旬には完成しました。その中で、バラエティーに富むさまざまな夏野菜の種を蒔き、苗の育成に励んでいます。良く晴れた日に外から見ると、ビニールハウスの上に反射する強い光が風に揺らめいて、まるで踊っているように、また、燃え立つ炎のように見えます。 果樹園では、ナシ、プラム、プルーンなど果樹の剪定、枝集め、枝焼きが終わり、葡萄棚の手入れ、ヤギサークルの補修工事も始まりました。今年度の農作業が本格化する頃、塾生活は3ヵ月目に入ります。塾生のSさん、Oさん、Kさん、3人にとっても正念場。この人生道場で何とか踏ん張って労働にいそしみ、生活習慣を正す中で聖書を学び、神様の喜ばれる本来的な生き方を模索する毎日です。 塾日誌より。「木下さんが切ったサクランボの木を薪にして運びます。木を見ていると、なぜか気持ちが落ち着きます。生きる力をもらいました。」「葡萄の木を起こしてひもで針金にくくりつける作業をしましたが、きつく結び過ぎないようにしないといけません。ただ機械的に作業をせず、実を結ぶ木のことも考えないといけないのだな、と感じました。」「塾で生活していると、冷静になって自分を見つめ直すことができます。過去の自分の過ちや罪を思い出したり、昔の自分にできて、今できなくなっていること、忘れていたものを思い出したりします。昔から自分が大切にしていたもの、人の道を外れてはならない、ということを、ここで再び教わりました。」 また、余市で日本初の本格的なウイスキーづくりをした竹鶴政孝を学んでの感想より。「水と麦汁の沸点の差を利用したり、石炭にこだわったり…、本気で物を作るには物への強い気持ちや忍耐が必要なのだな、と思いました。惠泉塾でも物や人に本気で向き合っている人たちがいます。何かに本気になる、ということは人間が生きる上で大切だと思いました。」 本物を作る、本気で人に向き合う、そこが竹鶴政孝と惠泉塾の共通点ではないか、という塾生の言葉に教えられます。本物を作る、本気で人に向き合う、本当の人生を生きる…、それはラクしてトクしたいという今の世の中の風潮に抗うものかもしれません。しかし、そこにこそ命があり、人を変える力があり、愛し合う空気が流れる、という逆説の真理を、ぜひ、今シーズンの塾生活の中でつかみとってほしいと願います。